ドン・キホーテの故郷、ラマンチャを訪問する
3月に続いて6月〜7月も、スペイン中部のワイン地域を視察してきた。3月に始めてマドリッドに腰を据えて周辺地域を廻ったところ、その人情や風情にすっかり魅了され、6月のヨーロッパ視察は、フランスやイタリアを早々に切り上げて、マドリッドにアパートを借り、本拠地とした。これは仕事だけではなく、個人的な事情がある。
30年以上もニューヨークの大陸性気候に親しんだお陰で、 夏は暑く、冬は寒いのが好みだ。まず、ファッションが楽しい。食事の変化も楽しめる。それに引き換え、現在居を構えているサンフランシスコは、一年中同じ様な温度と天気で、特に夏は寒い! 「一番寒い冬は、サンフランシスコの夏だ」という至言があるが、7月や8月でも20度程度の寒さだ。しかも海からの冷風が通り過ぎる朝晩は、薄手のオーバーが必要になる。そこで、夏はサンフランシスコを後にして、暑い地域の視察に集中することにしている。
首都マドリッドも相当の暑さで、日中は33度から36度くらい。ヒートアイランド現象もあってか、町中は夜の10時でも相当暑い。お陰で、大好きなタンクトップとショートパンツにビーサンを引っ掛けて、冷たいビールを楽しめる。天国だ!スペイン人に呆れられながらも、スペインで最も過酷な暑さと言われているラマンチャまで、視察に出かけた。マドリッドから 新幹線並みの超高速鉄道に乗り、南へ1時間で着く地域だ。招待してくれたワイナリーのオーナー達は、「くれぐれも朝一番の汽車に乗って来てね!畑の視察は、午前の早いうちでないと、体が持たないからね」と優しい。実際畑に着いた時点で、温度は37度。
この地域は、スペインのど真ん中に位置し、アメリカで言うと、オマハやネブラスカのような比較的平坦な農業地帯である。ブドウは勿論、パン用の小麦やトウモロコシなど、見渡す限りの穀物畑が続く。そう、あのラマンチャの男、ドンキホーテの故郷である。最高傑作として誉れ高い本や、ロングランを続ける舞台を見られた方も多いと思う。畑の視察を終え、蔵に入った時点で、温度は40度に達していた。こういう暑い地域の特徴で、赤ワインはどっしりとアルコール度が高く、もったり系のフルボディーを予想していたら、以外にもアルコール度数が13%前後と低めの、ジューシーなワインだった。理由を聞くと、この地域の農家は昔ながらの農法で、ブドウの収穫量(一本の木に実らせるブドウの房数の割合)が高いため、糖度が低く、アルコール が薄くなる。こういうブドウは、スペインの他の地域に大量に送られ、「かさを増す為に混ぜるブレンド用」として使われること多いのだ。
とはいえ、今回訪問したボデガ ラ テルシアは、オーガニックのロゼワインを作ったり、凝縮度の高い赤ワインを醸造する良心的なワイナリーだ。ニューヨーク市内のアスターワインにも卸している。一日の訪問と、スペイン独特の長いランチ(大抵3時くらいから始まって5時過ぎまで続く。暑いので、外で作業ができないため、この時間帯は食事に当てて、正解なのだ)を終え、さて今夜のホテルは?と、聞いてみると、『すごく特別な家を用意してあるんだ』という。なんと、ドンキホーテの作中にもでてくる、水車小屋が建ち並ぶ歴史地区(写真)で、地方独特の白と青のペンキで塗った母屋だ。折角の好意なので、一旦泊まることにしたものの、暑い、ワイファイも電話も通じない(仕事ができない)、レストランも近場にない、という三重苦に音を上げて、夜遅くタクシーを呼んで、こっそり駅の近くまで移動して、ホテルに泊まった